教育者奨励賞 受賞
「よい環境の中でよりよい保育」言葉にするのは簡単であるが、目の前にいる子ども達の一日を具体的にどう生活させていくことが、よりよい保育に近づけるのか、保育とは正解のない、常に研鑽していく仕事であると考えます。
昭和43年に高取保育園を開園しました。当時は、働く母親を支え、子ども達の生活を保障する為に保育園を必要とし始めた時代です。そのような中で、福岡市の民間保育園で最初の鉄筋コンクリート造りの2階建ての園舎で、定員100名でスタート致しました。
その後増員を繰り返し、現在は230名の子ども達をお預かりしています。
現今、女性の就労、少子化の中での子育て老齢化社会への対応、不況‥等の波の中で、未来を光あるものにする為には、今一度保育園の目的、機能を問い正し、より確かな保育展望を持ち、次代を築く子ども達を保護者と共にしっかりとした日本人に育てて行きたいと思います。その為に高取保育園で次の事を柱に実践を積み重ねています。
1 玄米和食の給食の取り組み
2 生活の広がり
3 しなやかな身体作り
子ども達を取り巻く環境は、開園45年で劇的に変化しました。特に食生活は、ごはん、味噌汁という和食の食卓は崩れ、母親の手作りの味を味わう事も少なくなり、インスタント食品や出来合いの食事で家族バラバラで好きな時にすきなものを食べるという時代になってしまいました。そのことを裏付けるように、1965年に一世帯当たりの米の消費量は、40505円で菓子は16684円であったのに対して、2004年には米類37934円に対して菓子類75896円となり、主食の米より多量の菓子を食べていることがわかります。この統計よりすでに10年経過していますので、もっと差が開いていることが推測されます。その数字と比例するように、アレルギーや落ち着かない子ども、キレる子供等の問題が増加してきました。
そのような中、福岡市で内科医院を開業され「自然食の会」の会長を務められていらっる安藤孫衛先生との出会いがあり、「日々の食事こそが健康を支える中心」である事を再確認しました。私自身は昭和ヒトケタの生まれで、食事を買って食べる事、ましてはインスタント食品などをほとんど口にしたことがなく、それほどまでに子ども達の食事が乱れていることを実感する場がありませんでした。子どもは食事を選ぶことはできません。周りの大人が準備したものを食べます。何をどのように誰と食べるかという事が子どもの食卓の原風景になるのです。それでは保育園の給食はどうあるべきなのか、様々な方の意見を伺ったり料理教室に通ったり試行錯誤をくりかえし体が喜ぶ給食作りにとりくみました。家庭の食事とは違い、いくら良い材料を使って和食を作っても栄養基準はクリアしなくてはいけません。和食の献立ですから肉や卵牛乳、砂糖も使いませんので、米や野菜、海藻等の食材をふんだんに使います。量をたくさん使えば良いかと言うと、子どもが食べ残してはなんにもなりません。目標数値を超えることは献立内容をよほど工夫しなくてはなりません。又、無農薬有機野菜を使いますので旬のものしか使いません。同じ野菜でも子ども達に美味しく食べてもらえるように調理の仕方を工夫します。今では、好き嫌いなく残食なく、良く噛んで食べています。と同時にどのクラスも静かに集中している食事風景を見る度に「食べ物が心も身体も健康にする」と言う事を実感します。
便利になった生活、水道に手をかざすだけでカランをひねらなくても手が洗える、風呂もボタン一つで快適な温度のお湯が沸く等、考えなくても、感じなくても生活ができる時代になりました。しかし、その中から工夫や助け合つて仕事をする等のこころが育つのか手足を巧みに使う仕事ができるようになるかは疑問です。日中の長い子で12時間、保育園で過ごします。何を保育園で経験し身に付けたかたかはとても重要です。年齢に応じた色々な生活の営みを日常の習慣として経験させていきたいと考えています。例えば、食事の際など、テーブルを拭く、配膳をする、どのようによそうと食べ物がおいしく見えるか考えながらやってみます。1回経験した子よりも、100回経験した子のほうが上手にできるのは、誰が考えても解ります。掃除機がなくても雑巾で掃除ができる。電気釜がなくても薪でご飯が炊ける。生活で必要な事はなんでもやってみることです。おとなは面倒がらずに見守ってあげることは、子どものもっている力を引き出すことにつながっていきます。
子どもは本来「遊びの天才」といわれています。遊びそのものが生活であり、生活の中から様々なことを学んでいきます。その基本となるのは、〈暑さ〉〈寒さ〉〈ひもじさ〉を子どもに経験させることであると考えています。物があふれて便利になった現代は、あえて意図的に環境を作ることが必要だと考え、裸足、薄着保育、自分で自分の身体をコントロールよく使える為のリズム運動、歩く力を漬ける為の山登りなどの遠足の取り組み等、子どものやりたいという気持ちを刺激し、しなやかな身体を作ってあげたいと思います。
全国から各分野の方が高取保育園を視察に来られます。皆さん異口同音に「子どもが落ち着いている」「ヒジキや切干大根を残さず食べるのにびっくりした。」と言われます。和食が健康によい。知恵や工夫があるがいい。身体を上手に使える方がいい。と誰でも解っています。やり方も解っています。何が問題かと言うと、良いと思ったこと、必要とされていることをやり続ける事です。一緒に保育を支えている職員が一人でも多くこの事を理解し実践していくことで、元気で笑顔一杯の子ども達が育ってくれる事を願います。
社会福祉法人福栄会 高取保育園 理事長・園長
西 福江 氏
昭和43年 5月福岡市早良区祖原に高取保育園を定員100名で開園
その後、増員を繰り返し、平成4年に移転し現在の早良区昭代に移転し230名の乳幼児の保育に携わる。