福岡県市民教育賞

一般社団法人 地域企業連合会 九州連携機構

地域社会教育賞 受賞

糸島地区保健師ブロック協議会
林 久美子氏と糸島地区保健師ブロック協議会

生まれ育ったまちで健やかに成長してほしい。

 私たち行政で働く保健師は、生まれてから死ぬまで、ライフステージに応じた健康づくりを進めています。
 妊娠期から小学校に上がるまでの乳幼児期を担当する母子保健の保健師は、糸島市で生まれ育つほとんどの子どもたちに会いますが、その中には、いろいろなハンディキャップがある子どもたちもいます。
 糸島市は、教育部門では特別支援学校、発達教育センター、保健・福祉部門では、児童精神科外来を有する専門病院、児童相談所、専門的療育施設がなく、県内ではその方面では孤立した地域と言われています。以前はその専門性を求め転出される人たちもいました。社会資源の少ない地域でも、生活の場を変えることなく「子ども達の力を何とか伸ばしたい」、「発達特性があるために子育てで戸惑い、苦労している保護者に寄り添いたい」という思いを抱いて、ずっと保健活動を行ってきました。
 市民教育賞に取り上げていただいた「地域連携の取り組み」は、それぞれの立場を理解し、お互いに協力できる仕組み「みんなで応援団方式」による「糸島で生まれた子どもは糸島で健やかに育って欲しい」との思いを広げていく取り組みでもありました。
 14年が経過しましたが、機関や施設がない状況に今も変わりはありません。ないものを補い「何とかしていこう」という強い思いこそが、人のつながりを深く広くし、工夫や知恵を生むのかもかもしれません。

出会いは偶然

 あれがない、これがないと愚痴を言っている時は、本当に何も進展しませんでした。
 私たちに転換のきっかけを与えてくださったのは、九州大学人間環境学府研究院教授大神先生との出会いです。地域で行われた講演会になかば動員として借り出されて出席していた私でしたが、大神先生の話にビビッときました。『犬はね、指を差したら指の先を見るけど、人はね、その先にあるものを想像してそちらを見ることができるんだよ。』の一言にです。
 当時、私達保健師は壁に突き当たっていました。3歳児健診で親からなかなか離れられない、集団の場面に入れない、計測等で大泣きするなど、特に知的発達の心配はないがなんとなく気になる。そういう子をどう見立てればよいのか。何かヒントが得られればと講演会後に先生に「もっと詳しい話をうかがいたい」とお願いし交流がはじまりました。
 それからは先生が専門とする「こどもの心の発達」に関し、共同で研究を進め、普通であれば私達が出会うことがなかったであろう多くの専門家との交流させていただき知見も広げていくことができました。
 そういった刺激が取り組みの原動力となり、私達の働く姿勢そのものを変えることになったのです。

みんなで応援団

 「地域連携の取り組み」などという言葉はとても難しく感じますが、一言で言えば顔見知りになることです。人と人が顔と顔をつき合わせ、言葉を交わし、手をつなぐ。子どもの成長には人の関わりが一番大事だと今でも思っています。
 現在、保健、福祉、教育の分野でいろいろな事業が展開されています。母子保健事業のわんぱく広場、療育事業のきらきら教室、就学時健診や就学移行支援キャンプ等、多くの事業はつながりの中から生まれました。顔をつき合わせ、「こんなことはできないかな」「一緒にやってみようか」となったものばかりです。相手に「やって」「やるべき」と求める姿勢ではなく“一緒に”がキーワードです。
 「みんなで応援団方式」はこんな具合に始まりましたが、多くの関係者の口から「応援団」という言葉が聞こえてくるようになりました。専門家ではなく応援団。応援団はどのような時もどんな場所でも最大限の応援をすることが可能です。
 「糸島で生まれた子どもは糸島で健やかに育って欲しい」という思いが多くの人たちに浸透してきたことを実感しています。
 次ぎは、その子たちが大人になったときに、わがまちを自慢し、そしてまたそのまちに住み、生み育ててくれるような魅力あるまちにしていくことです。

糸島地区保健師ブロック協議会
(林氏:前原市民生部児童家庭課 地域保健師)
林 久美子氏と糸島地区保健師ブロック協議会

1963年生まれ。大分県出身。保健師資格取得後、1985年糸島市役所(旧前原町役場)入庁。行政保健師として母子保健、成人、老人保健業務に16年携わり、2000年から児童福祉(子育て支援)の部門で12年。2012年からは古巣の健康づくり部門に戻り保健師業務を行っている。