福岡県市民教育賞

一般社団法人 地域企業連合会 九州連携機構

教育者奨励賞 受賞

大野城市立 大利中学校 教諭 岡本 泰弘 氏

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 ロールレタリングとの出会いは、15年前、ロールレタリングの創始者、西九州大学名誉教授の春口徳雄先生の講演に感銘を受け、先生の著書を夢中になって一晩で読み、見よう見まねでロールレタリングを始めたのがきっかけでした。その後、学校教育現場にいち早く導入し、ロールレタリングによって、いじめを克服していった生徒、保健室登校から教室復帰をしていった生徒、繰り返す家出から立ち直っていった生徒など、心の自己治癒力を働かせ、自己実現を果たすことのできた生徒と数多く出会いました。      
 ここ数年、いじめや不登校、学級崩壊等、児童生徒の様々な問題行動への対応の模索が続いています。特にいじめについては、今年6月にいじめ防止対策推進法が成立され、国を挙げてその防止に取り組んでいます。7年前、福岡や岐阜と相次いで起きたいじめ自殺事件は、日本全国を揺るがす大きな社会問題となりました。いじめで自殺した子の多くは、周囲には何も語らず、遺書によって初めてこれまでの苦悩や敵意、反感、憎悪など自分の感情を明らかにしていました。しかしながら、もし、事前に子どもたちの感情をさらけ出せるような環境が整い、そのやるせない感情をうまく表出することができていれば、深刻な事態は防げていたかもしれません。
 ロールレタリングは、相手を設定し自分が思っていることや感じていることを思いのまま手紙や文章で訴えます。数日置いて、今度は手紙を受け取った相手の立場になって自分へ返信を書きます。つまり、一人二役を演じ、往復書簡を行うことになります。なお、この手紙の内容は原則として、本人以外誰も見ることはありません。したがって、自分の心の中を本音で書き表すことができます。この往復書簡を重ねることによって、相手の気持ちや立場を思いやるという形で、自らの内心に抱えている矛盾やジレンマに気づかせ、自己の問題解決を促進させていくという心理技法なのです。
 平成16年に学校教育におけるロールレタリングの効果を信頼性・妥当性のある心理測定尺度で検証を行い、生徒のストレスの軽減、自尊感情の高揚、共感性の向上が図られ、ロールレタリングの有効性を「生徒のメンタルヘルスを促進するロールレタリング」(ロールレタリング研究第6号 2006)の論文で明らかにしました。これらの成果が評価され、新学習指導要領解説道徳編(平成20年9月)に「ロールレタリングによって他者のものの見方、考え方、感じ方を推し量ることができる。」と初めて記述され、平成21年には文部科学大臣優秀教員として表彰いただきました。
 平成22年には、「Changes in task-associated cerebral blood induced by Role lettering: Measuremennt by Multichannel Near-infrared Spectroscopy」(THE KURUME MEDICAL JOURNAL)の博士論文で医学博士を取得し、同年、第29回国際臨床神経生理学会(ICCN2010)で発表し、諸外国(中国、ドイツ、フィンランド、インド等)からも注目されました。また、今年8月には大阪で日本交流分析学会学術大会がITAA(International Transactional Analysis Association)と共同開催され、ロールレタリングという心理技法を脳科学から解明した研究発表を行い、世界から関心を受けました。
 現在は、軽度のうつ病の患者にロールレタリングを施し、久留米大学高次脳疾患研究所と共同で社会復帰を支援していく臨床研究にも着手しています。 
 今後、さらに、研究を進め、脳科学と心理学を生かした科学的な知見を導き出し、我が国のみならず世界の教育に貢献していきたいと考えています。

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大野城市立 大利中学校 教諭
岡本 泰弘 氏

那珂川町立那珂川北中学校主幹教諭。久留米大学高次脳疾患研究所共同研究員。
医学博士。学校心理士。1966年生まれ。
日本ロールレタリング学会会員、日本交流分析学会会員、日本臨床神経生理学会会員。
全日本空手道連盟剛柔会 7段、全日本空手道連盟 6段、元国体選手(空手道)、全日本空手道連盟剛柔会准指導委員、福岡県空手道連盟選手強化委員。
著書『いじめや不登校から生徒を救え!!実践ロールレタリング』(北大路書房)、『子どものためのエゴグラム・ロールレタリング実践法』(少年写真新聞社)等。国際学会等発表多数。